Digital Library of Yukichi Fukuzawa's Work

民情一新

「文明論之概略」と共に福沢の歴史観を知る上において見遁がすことのできない重要な著作である。「文明論之概略」において、福沢は歴史を動かすものは一二の英雄豪傑の力ではなくて時勢であると論じた。この「民情一新」においては更にその論緒を発展させて、時勢を動かすものは交通の便によると説いた。十九世紀文明の急速なる発達は蒸汽船車、電信、郵便、印刷の発明工夫に基ずくもので、結局蒸汽力を人類が利用することを知ったのが、近時文明の進歩の最も大きな原因で、しかもこの蒸汽力利用の発明によって、これを発明した人類自身が急激なる変化に遭遇して周章狼狽しているのが、現在の世態民情であると福沢はいった。新技術の発明が歴史を動かす原因であるとする福沢の所説は、物質的生産力が歴史推進の原動力であるとするマルクスの所説に甚だよく似ているので、近年になって永田広志、小泉信三などの諸家の注目するところとなり、研究論考の対象となった。福沢自身はもちろんマルクスの学説などは知らなかったのであるが、この書に就いては相当に自信があったものと見えて、「日本学士の思想」を示すために入に勧めて英訳せしめようとしたこともあった。その英訳は遂に成らなかったが、オーストリヤの碩学シユタイン博士からその著書を贈られたとき、これに答礼するために自著を贈るに当って、多くの著書の中からこの一冊だけを選んだことがある。
明治十二年八月慶応出版社から刊行された。果して版を重ねたかどうか明らかでない。四六判洋紙活版刷、本文百六十頁、目次二頁。黒色総クロース装丁で、表紙の平面には表裏とも太い枠罫を二重に空押しに打込んだだけで文字はなく、背だけに「民情一新全福沢諭吉著」と金文字を飾り罫で囲んで印刷してある。扉は「福沢諭吉著/ 民情一新全/明治十二年八月出版著者蔵版」の文字を三行に記し、周囲に飾り枠を配している。巻末の奥附には「明治十二年七月三十一日版権免許/著述出版人東京三田弐丁目弐番地福沢諭吉」と記し、次に売捌書肆の名を列挙して「同三島町拾番地山中市兵衛、同日本橋通三丁目拾四番地丸家善七、同三田弐丁目弐番地慶応義塾出版社」とある。

詳細情報

タイトル
民情一新
ヨミ
ミンジョウ イッシン
別タイトル
Transition of people's way of thinking
出版地
東京
出版者
[福澤諭吉]著者蔵版
出版年
1879
識別番号
福澤関係文書(マイクロフィルム版)分類: F7 A31請求記号: 福 31-5 著作