高橋誠一郎浮世絵コレクションについて

およそ千五百点を数えることのできる優れた高橋浮世絵コレクションは、保存と活用を念頭においた厳重な管理の下に、慶應義塾図書館で保管されており、今後美術史・歴史をはじめとした多くの学問研究に資することが期待されています。

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解説

 慶應義塾の塾長(代理)を務めた高橋誠一郎は、福沢諭吉の門下生であり、重商主義経済学説の研究で知られるすぐれた経済学者でした。また、戦後は文部大臣、東京国立博物館館長、日本芸術院院長などの要職を歴任され、日本の芸術文化の世界にも大きな足跡を残し文化勲章を受章しています。

 その一方、高橋は江戸時代の浮世絵の、国内では有数の個人コレクターとしても著名でした。日本浮世絵協会(現・国際浮世絵学会)会長を務め、浮世絵の研究を活発に進める傍ら、近世期、おもに庶民によって愛玩された浮世絵に深い愛情を注がれ、多数の版画や絵画を積極的に収集したのです。明治のころ、幼少時に横浜や東京でもてあそんだ記憶のある浮世絵版画を、高橋が本格的に収集するようになるのは、義塾の教授に就任した大正後半からであり、当初は自身にとって懐かしい明治期の版画を、さらにのちにはしだいに江戸中・後期の作品に遡って、体系的な収集がおこなわれていったのです。浮世絵の開祖・菱川師宣に端を発するその膨大なコレクションは、鈴木春信・喜多川歌麿・東洲斎写楽・葛飾北斎・歌川広重ら浮世絵の代名詞ともいうべき巨匠たちの数々の優品、さらには明治の小林清親・月岡芳年に至るまでをことごとく網羅し、コレクション単体で浮世絵の歴史を通覧することのできる、文字通り稀有な内容を示しているのです。研究的な視点をとり入れたその一貫した収集態度は、本来すぐれた学者でもある高橋ならではの見識を物語っているといえます。


 昭和五十七年、高橋の逝去に伴い、春画などの一部を除くコレクションの主要な作品の大半が、ご遺族から母校である慶應義塾に譲られました。現在、およそ千五百点を数えることのできる優れた高橋浮世絵コレクションは、保存と活用を念頭においた厳重な管理の下に、慶應義塾図書館で保管されており、今後美術史・歴史をはじめとした多くの学問研究に資することが期待されています。


文学部 内藤正人

高橋コレクションで巡る浮世絵の歴史


 初期浮世絵から幕末までを通覧できるよう時代順に並べた浮世絵解説です。 2007年、旧デジタルギャラリーサイトでの高橋浮世絵コレクション画像公開に合わせ、「高橋コレクションで巡る浮世絵の歴史」と題した9回のウェブ展示を行いました。内藤正人先生(文学部)に監修をお願いし、70余点を厳選の上、解説をつけていただきました。本解説は当時のものをそのまま掲載しています。 なお、後半4回の解説は、日野原健司氏(太田記念美術館)、樋口一貴氏(十文字学園女子大学)のご厚意で執筆していただいたものです。

高橋コレクションで巡る浮世絵の歴史