西洋中世写本コレクション
西洋の書物文化は、1455 年頃にヨハン・グーテンベルクが活版印刷術を用いた初めての本、いわゆる「グーテンベルク聖書」を完成させる以前に、約一千年にわたる長い手書き写本の歴史を持つ。鞣(なめ)された獣皮(羊皮紙)に羽ペンで手書きされ、金やさまざまな色の顔料で彩飾された写本は、その機能性と美しさの両面において、ひとつの完成の域に達していた。
解説
西洋の書物文化は、1455 年頃にヨハン・グーテンベルクが活版印刷術を用いた初めての本、いわゆる「グーテンベルク聖書」を完成させる以前に、約一千年にわたる長い手書き写本の歴史を持つ。鞣(なめ)された獣皮(羊皮紙)に羽ペンで手書きされ、金やさまざまな色の顔料で彩飾された写本は、その機能性と美しさの両面において、ひとつの完成の域に達していた。新技術を用いた印刷本は、当初は写本の安価な代用品と見なされていたところもあり、印刷本が、やはり15世紀に誕生した版画技術との協働によって写本にはない長所と独自の美を作りだして、最終的に手書き写本を凌駕してゆくには、さらに1世紀、16世紀半ば頃までかかったのである。中世写本はすべて手作りの一点ものなので、15世紀以降の印刷本と比較すると制作数も少なく、現存している数も決して多くはない。それでも相当数が欧米の主要図書館や古書業者、さらには熱心な個人コレクターに所有されていて、慶應義塾図書館にも300 点以上が所蔵されている。その大半は零葉(1葉のみの断片)だが、それでも 15 世紀の中英語で書かれた宗教写本、挿絵が美しい時禱書(じとうしょ)の完本、12 世紀に修道院で制作された神学書などさまざまな種類の写本が含まれる。
今コレクションは、2019年6月現在で慶應義塾図書館に収蔵されている全ての西洋中世写本及び断片の一覧リストである。但し、ʻLatin Paleography and Diplomatics: Part II: Diplomaticsʼ compiled by Bernard M. Rosenthal (170X@10@1/96)として一括購入された史料類は含まれていない。
各資料の書誌記述においては、英語と日本語による著者名(判明している場合)、書名あるいは簡潔な内容説明、制作地、制作時期、寸法、支持素材、フォリオ数を記した。 Bibliographical Notesの項目には、一部の資料については、英語で、上記の書誌情報に加えて、カラム(欄)数、行数、罫線の有無、書体、校合式、 内容一覧、挿絵や彩飾イニシャル、その他の特記事項などを、記述可能な限りにおいて記した。寸法(縦×横 mm)は、原則として第1葉(あるいはビフォリウム)のおおよその大きさを測った。必要に応じて括弧内に本文スペースの寸法を示す。慶應義塾図書館の請求記号はShelfmarkに記した。慶應義塾大学で過去に開催された展示の図録への言及を、Referenceの[ ]内に、略号と展示番号の組み合わせ(Eを除く)で示している。略号については、以下「略号、参考文献一覧」参照。
(松田隆美)