インキュナブラと慶應義塾図書館コレクション

インキュナブラ(incunabula)とは、いわゆる『42行聖書』をグーテンベルクが 1454/55年頃に完成させてから、1500年末までにヨーロッパで活版印刷された 印刷物を指し示す。

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解説

 インキュナブラ(incunabula)とは、いわゆる『42行聖書』をグーテンベルクが 1454/55年頃に完成させてから、1500年末までにヨーロッパで活版印刷された 印刷物を指し示す。語源はラテン語で「ゆりかご、むつき」を示す「cunabula (< cunae)」から派生し、「ゆりかごの中にあるもの、物事のはじめ」を 意味した。17世紀中葉になって初めて印刷との結びつきを持ち、15世紀の 印刷術を指すようになった。さらに18世紀末のドイツ図書館において 「印刷術の揺籃期に印刷された書物」として15世紀の印刷本自体を表す名詞として 用いられるようになり、その用法が現在まで続いている。 日本語では他にもインキュナビュラ、インクナブラ、インクナビラと表記されるが、 ここでは『本邦所在インキュナブラ目録』の著者雪嶋宏一氏と同様、広辞苑、 図書館学などの記述法「インキュナブラ」に従う。
 中世写本、近世以降の手稿本と同様、インキュナブラはその現存数が限られている ことなどから、特殊コレクションとしてきわめて貴重な資料として扱われる。 慶應義塾図書館でのインキュナブラ収集の歴史を紐解くと、本格的な収蔵が始まった のは1979年以降である。収蔵の歴史は古いとはいえないものの、科学史、百科全書類、 イギリスの刊本などを中心に、コレクションの内容は充実している。またほぼ同時期に 出版された複数の印刷本を合わせた合冊本の存在も特筆すべきであろう。
 このDigital Galleryでは、各インキュナブラを収蔵年順に並べ、請求記号とは 別に独自の番号(IKUL番号)を振っている。各書物にはISTCに基づく著者名、 タイトル、出版情報などの基本的な書誌情報とその日本語版、また装丁や来歴など 慶應本の特徴(英語のみ)、collation (BMCに情報がない刊本についてのみ)、 日本語による解説、代表的なページのデジタル画像などが付されている。 さらに近年高まりつつある合冊本への関心を考慮し、合冊本には合冊本全体としての 解説も加えている(IKUL 022、023、031、041を参照)。本コレクションについては、 来歴や欄外注釈などの書き込みの解読等、今後の課題として残る部分も多い。 しかし今回ウェブサイト上で公開することで、日本における西洋初期刊本への 関心や理解が深まるとともに、本コレクション研究のさらなる発展が期待される。

(徳永聡子)

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