インキュナブラコレクション
キャクストンが1480年、1482年と続けて出版したのに続き、イングランドの年代記第三版としても目されるのがこの、『セント・オーバンズ[オルバンズ]の(イングランド)年代記』だ。内容は概ね一致するものの、キャクストン版と較べると微妙な違いがある。セント・オーバンズ版の方が聖職者に関する記述が多く、それは印刷用原稿に用いた写本に違いがあったためとされる。この印刷業者がキャクストンとどの程度職業上の関わりを持ったのかについては、様々な憶測を呼んでいる。この版ではないが、他のセント・オーバンズの出版業者の出版物の中にはキャクストンのタイプが混ざっているケースなどもあり、二人の間には師弟に似た関係があったのではないかと推測される向きもある。しかし、この印刷業者が何者だったかは謎に包まれている。僅か六、七年しか活動しておらず、生産した八点の内英語の本は二点しかない。しかし印刷機による二色刷りを導入するなど、確かな印刷技術を持っていたことが伺われる。いずれにしても、ウェストミンスター、オクスフォードに続いて印刷出版業第三の地をイングランドに拓いた、この印刷業者の功績は大きい。『セント・オーバンズの年代記』は世界で二十部しか現存が確認されていない。慶應本は290葉中の92葉が欠けている(内3葉は白紙)とはいえ、当時の形跡を留めた極めて重要な一書である。キャクストンの後継者ウィンキン・ド・ウォードはこの版に基づいて『イングランド年代記』を1497年に再版している。
【参考文献】
Blades, William, The Life and Typography of William Caxton, England’s First Printer, 2 vols (1863; New York: B. Franklin, 1965)
Painter, George, William Caxton: A Quincentenary Biography of England’s First Printer (London: Chatto and Windus, 1976)
Catalogue of Books Printed in the British Library, BMC, part XI: England, ed. by Lotte Hellinga ('t Goy-Houten: Hes & De Graff, 2007)
(MT)
(松田隆美編、『Mostly British: Manuscripts and Early Printed Materials from Classical Rome to Renaissance England in the Collection of Keio University Library / ローマ帝国からイギリス・ルネサンスへ―慶應義塾図書館蔵稀覯書展』(東京: 慶應義塾大学, 2001), p. 123より、一部改訂して転載。)
詳細情報
- Place of Publication
- St. Albans
- Printer
- Schoolmaster Printer
- Format
-
fº
- Date of Publication
- [c. 1486?]
- Binding
-
Early 19th-century straight grain purple morocco with bevelled panel with crest, gilt ornaments in angles, gilt and blind tooled back, gilded edges.
- Bibliographical Notes
-
198 leaves (of 290), beginning on d1 and ending on a fragment of I2; some intervening leaves missing; all the missing portion supplied in manuscript transcriptions; initial capitals and paragraph marks being printed in red; some annotations in contemporary and later hands.
- ISTC
- ic00479000
- Reference
- Goff C479, HC 4997, GW 6672, IJL 109, IJL2 133, PP 15, T 26, MB 18
- Shelfmark
- 120X@656@1
- Acquisition Year
- 1985