インキュナブラコレクション
002
ユウェナリス 『風刺詩集』
Satyrae (Comm: Antonius Mancinellus; Domitius Calderinus; Georgius Merula; Georgius Valla)
IIIF Manifest
古代ローマ帝国時代、2世紀半ばに風刺詩人として活躍したユウェナリスは、ローマの東南東約100kmに位置する町アクウィーヌムに生まれたといわれる。ルキリウスに始まるローマ風刺詩の伝統の最後に登場したこの詩人は、自己を語ることが少なく、しかも存命中は世に知られることはほとんどなかった。このため彼の生涯について詳しいことはよく判っていない。同時代の著作家たちの中ではエピグラム詩人のマルティアリスのみがユウェナリスのことに言及し「雄弁な(facundus)」と形容している。
現存する『風刺詩集』は 5巻、16歌で構成され、各巻は公刊年度順になっている。ユウェナリスは、叙事詩および風刺詩の伝統的な韻律であった6脚韻を駆使することのできた、ローマ最後の詩人とも賞されている。また彼の風刺は道学者の説く教説ではなく、市井の人の時勢に対する抵抗という趣を持つとも評される。初期の作品には見られるその強烈な風刺ゆえに、時の皇帝ドミティアヌスの怒りを買い、一時追放に処されたという所伝もある。
詩人の死後、作品は読まれることが少なく、『風刺詩集』が注釈付きで編纂されたのは4世紀後半になってからのことであった。しかしそれ以後は彼の作品は広く知られるところとなり、後世の文学作品に脈々と受け継がれている。特に中世末期からルネサンス以後、多くの風刺詩人たちは彼を手本にして風刺詩を創作した。例えば17世紀の英国詩人ジョン・ドライデン(1631-1700)による『風刺詩集』(1693年)やサミュエル・ジョンソンの『ロンドン』の抄訳などもある。
慶應本の刊記には「かつてケレトにありしタクイヌスのヨハネス」とあるが、ケレトはトリノの小さな近くの町である。本書を出版したヨハネス・タクイヌスは古典作品関連を多く出版した。最初の刊行物として今日知られているものは1492年8月18日付けの刊記をもち、以後16世紀に入っても出版活動を続けた。再版する時、タクイナスは往々にしてもとの版の刊記に手を加えなかったため、出版年が古いままで残っている場合があり、書誌学者の悩みの種であった(BMC, V, lix)。慶應本の版はその刊記にある通り1498年7月24日印行で、タクイヌスの第三書と思われる。タイトルページには大きな木版画の挿絵が入り、右手にペン、左手には紙を押さえるためのペンナイフをもって筆写する写字生の姿が描かれている。またローマン体で印刷された本文を注釈が囲み、文頭は木版による大文字で飾られている。
【参考文献】
ユウェナリス『サトゥラエ—風刺詩—』藤井昇訳 (東京: 日中出版, 1995)
Wilson, Katharina M., and Elizabeth M. Makowski, Wykked Wyves and the Woes of Marriage: Misogamous Literature from Juvenal to Chaucer (Albany: State University Press, 1990)
(ST)
詳細情報
- Author
- Juvenalis, Decimus Junius
- Place of Publication
- Venice
- Printer
- Johannes Tacuinus, de Tridino
- Format
-
fº
- Date of Publication
- 1498/07/24
- Binding
-
17th-century vellum binding over card boards.
- Bibliographical Notes
-
218 leaves; with a woodcut illustration on the title page, woodcut initials throughout the volume, printer's device on RZ5v; some contemporary marginalia.
- ISTC
- ij00666000
- Reference
- Goff J666, H 9714*, BMC V 533, IJL 195, IJL2 243, PP 104
- Shelfmark
- 120X@509@1
- Acquisition Year
- 1979
- Provenance
-
T.E.D. Phillips (signature; flyleaf).