普通選挙コレクション
解説
1928(昭和3)年2月20日に実施された第16回衆議院議員選挙は、日本の選挙史上、選挙ポスターが本格的に導入された初の総選挙であった。男子普選法成立後の総選挙であったため急増した不特定多数の有権者に自らの主張を訴えるため、さらには大正デモクラシーから昭和初頭の政党政治の時代を迎え、従前の「情実」に依拠した選挙ではなく「政策」を訴える選挙が理想とされたため、その有効な手段としての選挙ポスターに注目が集まり積極的に活用された。貼る場所や枚数の規制がなかったため、全国で3000万枚以上の選挙ポスターが作成され街中に溢れることになる。
本コレクションは、該総選挙で作成された選挙資料である。慶應義塾大学三田キャンパスの図書館旧館に、新聞紙大の台紙に添付製本され、選挙ポスター、選挙ビラ、推薦状が、「普選資料」と題し三分冊で平積配架されていた。有力二大政党である立憲政友会と立憲民政党はもとより、男子普選実現後に躍進することが期待された無産政党(社会主義政党)各派、実業界の利益代表を目指した実業同志会を始め第三政党以下の政党や候補者のポスターを見出すことができ、初の男子普選に名乗りを上げた幅広い政党会派の選挙資料であることに特色がある。
各政党候補者とも、自らの主張や政策を訴えるため意匠を凝らした種々の興味深い選挙ポスターやビラを作成している。その中には著名な風刺漫画家北澤楽天や岡本一平を起用し描いた意匠を見出すこともできる。推薦状は、定形の文言が活用されている事例が多いが、候補者が訴える政策や集票を期待する選挙区の有権者を意識した文言を確認できる。さらに、これらの選挙資料には選挙運動責任者を記載することが求められていたため、選挙陣営の中枢にいた人物情報も得ることができる。
本コレクションは、東京、大阪、兵庫(一部、長崎、福岡、山梨)から出馬した候補者の資料が中心であり全国をカバーしているわけではないが、選挙ポスターの多くが街頭などの屋外に貼られ、その他の資料とともに選挙が終われば破棄される運命にあり残存しにくい性格を有しているだけに、選挙戦の内実を探るための貴重な資料群と言える。
また、政党や候補者のポスターだけでなく、選挙を管轄する内務省や地方庁が男子普選初の総選挙を前に投票率向上や選挙違反防止を目指し作成した、種々の選挙啓蒙ポスターの存在も特記しておきたい。
(玉井 清)
<参考文献、凡例>