インキュナブラコレクション
自然界に存在する動物、植物、鉱物を収集し、分類し、自然に対する知識を体系化してきた博物誌は、古今東西長い歴史を持つ。東洋では人間に役に立つ「薬」という視点で本草学があり、これも博物誌の一つとみなすことができる。1980年代後半、日本では作家荒俣宏が17-18世紀において挿絵を多用したゲスナーやビュフォンなどを紹介した著作『世界大博物図鑑』全5巻(平凡社1987-91)が出版されたことによって、西洋の博物誌が再発見される契機となった。
博物誌の世界は古代ギリシャのアリストテレス、ローマのプリウスにその原点を求めることができる。アリストテレスは自然観察者として多岐に渡って自然を捉え、『動物誌』、『天体論』、『気象論』などの著作を残し、体系化している。
そうした中で、アリストテレスは動物に対する関心をひときわ持っていた。動物の諸部分の分類、形態、生殖、生態、心理、病理と多岐にわたって書かれた『動物誌』、動物の諸器官が機能する原因を明らかにした『動物部分論』、成体過程を論じた『動物発生論』の3つの著作を集めたのが本書『動物論』である。詩人ホメロスや歴史家ヘロトドスの著作、自らの観察、猟師、漁師からの話を集大成して完成した『動物論』は、その内容として15世紀において十分通じるものであった。アリストテレスの『動物論』は、外見的な観察、叙述的な面に重きをおいた17-18世紀の博物誌、動物誌とは一線を画しており、動物の内面に深く掘り下げている。
『動物論』はギリシャ語からラテン語の翻訳されており、ISTCによれば、4版が現存し、そのなかで一番年代の古い1476年版が標準的な訳書とされている。1476年版である本書は、枢機卿であったルドヴィカス・ポドカサラス(Ludovicus Podocatharus)が編集にあたり、ギリシャの古典学者であるセオドラス・ガザ(Theodorus Gaza)がラテン語に訳している。
印行地はヴェネツィア。その当時ヴェネツィアは印行おいて隆盛を極めた時代であった。印刷業者は、ローマン体を作り出したと言われているフランス人のニコラ・ジャンソン(Nicolaus Jenson; IKUL 029参照)とともに、ヴェネツィアを活字の父型、母型の供給地として商業ベースに載せたドイツ人のヨハネス・デ・コロニアとヨハネス・マンテンである。ガザ訳は1492、95、98年にヴェネツィアで別の印刷業者が印行している。
18世紀にベラムで製本された251葉(1葉欠)からなる本書は、1ページ35行にローマン体の前期にあたるヴェネツィア体が用いられている。 全体として太線と細線のコントラストが少ないこと、‘e’の文字の中棒が右上がりになっていること、‘M’などに見られる文字のストロークの端にウロコと呼ばれるセリフが付いることなど、ヴェネツィアで1470年ごろから使われ始めたヴェネツィア体の特徴を示している。
(KI)
詳細情報
- Author
- Aristoteles [Aristotle]
- Place of Publication
- Venice
- Printer
- Johannes de Colonia and Johannes Manthen
- Format
-
fº
- Date of Publication
- 1476
- Binding
-
16th-century vellum over card boards.
- Bibliographical Notes
-
252 leaves; running title and marginalia in a contemporary hand; spaces for initial capitals.
- ISTC
- ia00973000
- Reference
- Goff A973, IJL 027, IJL2 034, HC 1699*, BMC V232, GW 2350
- Shelfmark
- 120X@788@1
- Acquisition Year
- 1988
- Provenance
-
Myron Prinzmetal (bookplate).