デジタルで読む福澤諭吉
明治政府の成立後間もないとき、政府部内でも国事を評議する手続体裁などがわからずに困っていた。あるとき、紀州藩士伊達五郎が来訪して、右に関するよい案内書があれば翻訳して貰いたいとの話に、福沢は即坐にこれを引受け、種々の原書を取集めてイギリスの国会に関する部分をしらべ、原稿に取り掛るのと同時に、版下書家や版木師に命じて彫刻の用意をさせ、二枚でも三枚でも原稿の成るに従って即刻版下書家に廻わし、版下ができれば直ちに版木師に渡して彫刻させ、彫刻ができれば擢師に渡して幾百枚を印刷させ、毎日これを繰り返して、その間に一切の職人の手間賃に割増しを与え、昼夜の別なく勉強させて、執筆起稿のその日から一切の事を終って「英国議事院談」二冊の製本何百部がでざ上るまで、僅かに三十七日に過ぎなかったという。木版彫刻の時代にこのような速成は古来未曾有の異例であった。別にそれほど出版を急ぐ必要があったというわけではなかったのであるが、著者が若さの気力に任せ、他人のできないことをやってみようとの好奇心から出たものであったという。
木版半紙判二冊本。二二・三× 一五・五cm。表紙は網目模様の地紋の濃藍色。左肩に、子持罫の枠の中に「英国議事院談 一(二)」と記した題箋が貼ってある。「英国」の二字は角書きである。見返しは黄色の和紙、子持罫の大枠の中を簡単な飾り罫で縦三行に割り、中央に「英国議事院談」と大書し(「英国」の二字は角書き)、右側に「福沢諭吉訳述」と記し、その下に「慶応義塾蔵版之印」と陽刻した長方形朱印を押捺し、左側に「明治二年/己巳仲春」と二行に記し、その下に「尚古堂発兌」とある。
巻頭に厚雁皮紙一丁を挿み、これに口絵と題字とを掲げている。口絵はテームス河を隔てて議事堂を望む風景で、題字は「新法由来原干古風」の八字である。第一巻は例言四丁、目録二丁、本文三十三丁、第二巻は巻頭に厚雁皮紙二頁大の折込口絵を挿み、木版印刷の「下院評議之図」を描いてある。本文三十五丁、挿絵二面。二十七丁オモテに「テイムストンネル之図」、二十八丁と二十九丁との問に二頁大の折込みで「議事院平面之図」が挿入してある。第三十五丁ウラに、「慶応義塾蔵版」と題する書目が掲げてある。
異装本の一つに布装帙入二冊本がある。桐の葉を浮織りにした金茶色の絹地を表紙とし、帙には淡茶色の絹地を用い中央に題箋が貼ってある。その他は、見返し用紙が淡青色であるだけで、普及本と一切変りはない。
詳細情報
- タイトル
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英國議事院談. 一
- ヨミ
- エイコク ギジインダン
- 別タイトル
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English parliament
英国議事院談 - 出版地
- 東京
- 出版者
- 尚古堂
- 出版年
- 1869
- 識別番号
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福澤関係文書(マイクロフィルム版)分類: F7 A11-01
請求記号: 福 11-5 著作