インキュナブラコレクション

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016

イシドール 『語源論』

Etymologiae

セヴィリアの司教、聖イシドール(c. 560-636)の著した『語源論 (Etymologiae) 』は、最古の百科辞典といわれている書物であり、中世において広く使われ、同時代における事典編纂の先駆とみなされている。本書は、題名にあるように語源について述べるのみならず、法律、文法、歴史、数学、天文、教会のしきたり、建築、農業、金属、石、獣についてなど幅広い事項を扱い、後期ローマ世界の知識および思考形式を後世に伝えるという重要な役割を果たした。
イシドールはスペインのセヴィリアにおいて大聖堂付属学校に学び、ギリシャ語、ラテン語およびヘブライ語に精通していた。600年頃、セヴィリア司教区を継ぎ、当時スペインに影響を及ぼしていたゴート族の野蛮さや彼らの学問への軽蔑から国を守るべく奔走した。彼は古典をはじめとする学問を奨励し、当時もっとも学のある人間と称されていた。イシドールの代表作である『語源論』は晩年にサラゴサの司教のすすめにしたがって書かれ、円熟した彼の知識の集大成となっている。本書は中世の学校において幅広く使用され、印刷も版を重ねた。高い評価を受けた『語源論』は、古典の宝庫であり、古典の原典そのものよりもよく読まれたという。
慶應本は、ヨハン・メンテリン(c. 1410-78)の印行で、アルザス地方のシュトラースブルク(現・ストラスブール)において印刷された。メンテリンははじめ彩色師として印刷業の道に接し、マインツで印刷術の修行を積んだ。初めてドイツ語による49行聖書を印刷したことでも知られ、1460年にフライブルクでこの聖書を出版した。一日に300枚の印刷を手がけることができたらしい。
1472年11月にドイツのアウクスブルクにおいてギュンター・ツァイナーの印刷した『語源論』と、1473年頃の出版とされるメンテリン版では、どちらが先に印刷されたものか、書誌学上の議論があるが、メンテリン版のなかでは奥付のないもののほうが古いとされ、慶應本はこれにあたる。子牛革、豚革およびモロッコ革を用いてつくられた装丁は現在でも比較的丈夫な状態を保っており、中身も非常にきれいな状態で保存されている。見返しにはペンローズとペンローズ2世の蔵書票が貼られ、現在では判読不能であるが蔵書印かと思われる判も押されている。
本文はラテン語で、2段組み、各51行で構成され、ローマン体で印刷されている。1ページ目の頭文字Dには、薄い赤紫と黄緑で美しい彩色がなされており、本文の装飾には頭文字に赤や青を入れてあるほか、見出しやアンダーラインが朱で入っている。また、円形の図表や木のような形をした図表も挿入されており興味深い。余白には所々に書き込みがみられる。遊び紙には紋章のような、本文の紙には花もようの透かしが入っている。

【参考文献】
Catholic Encyclopedia on CD-ROM

(MO)

詳細情報

Author
Isidorus Hispalensis [Isidore of Seville]
Place of Publication
[Strassburg]
Printer
[Johann Mentelin]
Format

fº

Date of Publication
[c. 1473]
Binding

Old mottled calf over boards, pigskin back, raised bands, with black morocco labels.

Bibliographical Notes

leaves (of 142), wanting a1 (blank); capital at book opening beautifully decorated; initials rubricated in red or blue throughout; occasional annotations in a later hand.

ISTC
ii00182000
Reference: 
Goff I182, HC 9270*, BMC I 57, IJL 171, IJL2 213, PP 64
Shelfmark
142X@36@1
Acquisition Year
1985
Provenance: 

1. The Faculty of Philosophy at Vienna, 1686 (signature). 2. Boies Penrose (bookplate). 3. Boies Penrose II (bookplate), sold at Sotheby's sale, 1971, lot 121.