荒俣宏旧蔵　博物誌コレクション

1827年、ゴスはニューファンドランドに商業目的で赴き、8 年滞在、ついでカナダに 3 年、アラバマに 1 年居留した。幼い頃から博物学に強い嗜好を持っていたゴスは、こうした多様な異国経験を活かして、昆虫採集に精を出し、とりわけ鱗翅類のコレクションは傑出していた。1844 年、ジャマイカに移った彼はキリスト教普及協会のために博物学の入門書を幾点も執筆する。 1848 年以後は顕微鏡を多用し、そのためかワムシ類のような微細な動物をも記述できるようになった。魚の図版は多くの場合、浜辺にさながら魚屋の店先のような格好で何匹もが重なり合って横たわる姿を描くのが、ひとつの規範になっていた。ゴスはその伝統を打破して、水中写真のような精細きわまりない海中風景を描出することに成功した。

（鷲見洋一編集・執筆『繁殖する自然―博物図鑑の世界』慶應義塾図書館、2003年　より）