高橋浮世絵コレクション

三囲稲荷の鳥居のそばで煙管をふかしているのは、歌舞伎役者の中村芝翫(三世中村歌右衛門)。大坂歌舞伎の人気役者であったが、三度江戸で遠征公演を行ない、いずれも成功を収めている。その有名人のお忍び姿を目に留めたのが、芸者とその母親(あるいは付き人)らしき女性たち。思わぬところで思わぬ人に出会いハッと驚いたといった表情だ。三囲稲荷は隅田川沿いにあり、堤防から石段を降りるとすぐに神社の入り口である鳥居へとつながっていた。文政期の作。(日野原健司)