インキュナブラコレクション

031c

コルウィヌス 『詩歌の構造』

Structura carminum

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本書は15世紀末に、ラテン語韻文について書かれた書物である。全7編から成る合冊本の第3書で、ラテン語韻文の構成を解説する第2書のように、詩文作成法についての内容である。15世紀におけるラテン語研究の分野では、ドイツの学者は当時イタリアの学界を席巻した人文主義の思想を学ぶのが一般的であったと考えられている。つまり、北ヨーロッパにおいては、ローマ時代の作家の著作を解釈した「フマニスト」と呼ばれるイタリアの学者の研究に重点がおかれた。しかし、この第3書の著者はイタリアではなく、ポーランドの出身である。
ラウレンティウス・コルウィヌス(c. 1465-1527)はポーランドの詩人や言語学者として知られており、ポーランド語やラテン語で詩作した人物で、ニコラウス・コペルニクス(1473-1543)の友人でもあった。二人ともクラクフ大学に入学し、コルウィヌスは1489年、すなわちコペルニクスが入学する二年前に修士の学位を取得し、ポーランド内の様々な大学で教鞭を取った。本書の序文ではコルウィヌスがクラクフの学生達に向けて謝辞を述べているが、刊記には出版の年月日のほか、Swidnicaという町でテクストが誕生したことも記されている。コルウィヌスは1494年にSwidnicaで教師をしていたことが知られている。しかし本書が印刷された場所はライプツィヒであると考えられている。その根拠は、その名に言及してはいないものの、ライプツィヒで印刷所を構えていたマルティン・ランツベルクの印刷商標があることである。サクゼン州の君主フリードリヒ1世(1370-1428)の在位中の1409年に、プラハから来た学生達によって設立されたライプツィヒ大学には15世紀から16世紀にかけて毎年約2000人が入学したが、そのような若者の中にボヘミアから来たポーランドの人文主義に関心を抱いた学生達も大勢いたことが知られている。この学生達によって、本書はライプツィヒへもたらされたと考えられる。
本書に手書きで書き込まれた注釈は、本合冊本の第5書(ティブルス)に注釈を書き込んだ人物と同じ手によるものであると、クリスチャン・イエンセン博士が指摘している(Jensen, p. 484)。コルウィヌスは代表的な近代ラテン語の作家だが、ティブルスは古典ラテン語の作家の一人である。手書きの注釈から判断すると、コルウィヌスのテクストは学士号のレベルであり、ティブルスは修士号のレベルであったとされている(Jensen, pp. 484-85)。この7編の合冊本は長年にわたって学問的な訓練を受けた一人の学生によって編集されたという可能性も指摘されており、その是非を明らかにする証左としても、本書はきわめて重要である。

【参考文献】
Jensen, Kristian, ‘Exporting and Importing Italian Humanism: The Reception of Italian Printed Editions of Classical Authors and their Commentators at the University of Leipzig’, Italia Medioevale e Umanistica, 45 (2004), 437-97

(StN)

詳細情報

Author
Corvinus, Laurentius
Place of Publication
[Leipzig]
Printer
Martin Landsberg
Format

4º

Date of Publication
[not before 1496-08-20]
Binding

Volume of seven texts [031a-g] in a contemporary German half pigskin leather binding over wooden boards engraved with blind stamping, using a ms fragment, a fully functional hook-clasp fastening with ornamental engraving.

Bibliographical Notes

A-C6 D4 E6; 28 leaves; contemporary annotations in red.

ISTC
ic00942000
Reference: 
Goff C942, HR 5777, GW 7802, IJL 115, IJL2 141, PP 44
Shelfmark
120X@860@1
Acquisition Year
1989
Provenance: 

Hartung und Karl, München 8 November 1988, lot 241.